イオン空白福井県

毎日新聞福井支局長(宮崎泰弘)からの手紙     2023年3月27日

イオン空白県・福井の底力

 福井は全国で唯一、ショッピングモールなどを展開するイオン(本社・千葉市)がない県です。福井市民は国道8号沿いのフェアモール福井(通称・エルパ)でよく買い物します。運営会社の佐々木国雄常務理事(53)を取材すると、イオンなどの大手とは対極にある独自の運営が県民の消費を支えていることが見えてきました。

 エルパは、ユニー(本社・愛知県稲沢市)のスーパーと専門店約160店、映画館などが入居する県内最大のモールです。佐々木さんによると、モールは、大手が建設し、その中に地元の店が入るのが一般的。逆に、地元の組合が整備し、核店舗としてユニーを誘致したのがエルパです。こうした地元主導のモール運営は「福井方式」と言われ、全国ではあまり目にすることがありません。

 福井方式が生まれたのは、1977年に福井市内で開業したショッピングタウン「ピア」がきっかけでした。県外大手の進出計画に対抗し、地元の専門店を守ろうと店主らが中心になって開発したのがピアでした。ピアの成功を受け、福井方式による施設の建設が相次ぎ、エルパも2000年10月にオープンしました。

エルパの店舗戦略について、佐々木さんは「いかに地元の店が営業を続けていけるかを重視しています」と強調。大手のモールだとテナントとして多くの有名店が入り、地元からの出店は少なくなります。売り上げが小さい店は契約期間が切れると、撤退を余儀なくされます。大手は各店の売り上げの一定都合をテナント料として得ることが多く、売り上げが見込める店を出店させるからです。

 一方、福井方式のテナント料は定額で大手より安く、「目指している方向が大手とは違います」と佐々木さん。約85店の地元専門店が集まる区画では、開業時と同じ場所で営業している店が半数もあるそうです。さらに、売り上げの稔額は開業15年目の2015年に最高になりました。商業施設では開業初年度にピークとなるのが一般的です。魅力がじわじわ広がり、集客につながっていることが明らかになりました。

 他にも秘密がありました。佐々木さんは「我々が考える一番売り上げを上げる方法は人なのです」と力を込めます。少ない人数で公立よく働ける店づくりを進めてきました。

 その象徴が開業から22年間変えていない午前10時~午後8時の営業時間。10時間営業だと各店が早番と遅番で店を回せます。長持聞労働になると士気が下がり、店員が離れていきます。代わりを雇えば人件費が上がり、利益を圧迫します。

 開業時に年間3.日だった休業日も段階的に増やしています。そして、10日にした年が売り上げが最高になった15年です。今は元日を含む年間14日を休業日としていますが、売り上げを維持しているそうです。

 とはいえ、例えばファストファッションの代表格であるH&MやZARAなどが福井になくていいのでしょうか。県民が流行の最先端や低価格などのメリットを得られる機会になるはずです。佐々木さんに聞くとブランド店を入れて欲しいという話はよく聞きます」。しかし、そういう店は面積が広く、代わりに地元の20店舗が生き残れなくなるといいます。「地元の店が根付き、福井の人に商売をさせてもらう気構えでやっていくことも地元経済を回す大きな役割になっています」と続けました。

 イオンの広報担当は「いい場所があれば出したい」と話し、福井出店に含みを持たせています。こうした中、佐々木さんの言葉から、地元で作り上げた強固な商業モデルを守り、地域経済を支え続けていくという信念を感じました。