帯状疱疹

強い痛みの帯状疱疹、増加傾向 コロナ感染の影響指摘も

日経新聞 2023年7月1日

強い痛みと発疹を伴う「帯状疱疹(ほうしん)」の患者が増加傾向にある。水痘(水ぼうそう)ウイルスが原因で、疲労やストレスなどによる免疫力低下が発症を引き起こすとされる。高齢者がかかりやすいが若年層の発症もみられ、新型コロナウイルス感染によりリスクが高まるとの研究も出てきた。ワクチン接種といった対策や早めの受診が欠かせない。

「下半身の神経に響くズキンとした痛みと共に赤い斑点や水疱(すいほう)が一気に広がった」。

大阪府内に住む70代の女性は今春、帯状疱疹にかかった。激痛が治まらず日常生活にも支障が出た。診察した府内の病院に勤める男性医師は「人によっては夜も眠れないほどの痛みを伴う」と警鐘を鳴らす。

患者は増加傾向にある。医療機関を対象とした3年ごとの厚生労働省の抽出調査で、2017年の調査日は1万3900人だった。15年前の02年と比べると2割多い。コロナ禍の20年は受診控えが起きたとみられ、患者は1万2400人とやや減少したものの、全体としては増えつつあるという。

20年の患者数を年代別にみると70代が約3500人で最も多く、80代が約2800人、60代が約2000人だった。発症の背景として加齢による免疫力の低下があるとされ、近年の患者の増加は社会全体の高齢化が一因とみられている。

一方、宮崎県内の独自調査をとりまとめている外山望医師は「高齢者の病気と思われがちだが、20~40代でも発症が増えている」と指摘する。背景の一つとみられるのが、子供の水痘ワクチンの定期接種だ。

乳幼児を対象とした定期接種は14年に始まり、現在10歳前後より幼い子どもはワクチンによる免疫を獲得し、水ぼうそうにかかり難い。かつての親世代は感染した子供との接触を通じてウイルスにさらされ、再び免疫力が高まるとみられてきた。定期接種が広がり、こうした効果は得難くなっている。

新型コロナが影響しているという見方もある。米国の約200万人のデータを分析した研究では、50歳以上ではコロナ感染者は感染していない人に比べて帯状疱疹を発症するリスクが15%高いと報告された。コロナ感染者の体内で、帯状疱疹のウイルスを抑える免疫機能が低下することが原因と考えられるという。

近畿大医学部の大塚篤司主任教授(皮膚科)は「帯状疱疹は加齢や病気による免疫力低下の他、長時間勤務などによる疲労やストレスも発症の原因になるとされる。予防には健康的な生活が欠かせない」と注意を促す。

発疹が治まっても痛みが続く「帯状疱疹後神経痛(PHN)」になるケースもある。ワクチン接種費用を独自に助成する自治体もあり、外山医師は「体の片側に痛みを伴う発疹が出た場合は早めに医療機関を受診して欲しい。ワクチン接種が最も有効な予防法だ」と話している。

80歳までに3人に1人が発症と推定

帯状疱疹は水痘(水ぼうそう)の原因と同じウイルスにより起きる皮膚の病気。水痘が治った後も神経に潜伏したウイルスが、免疫低下や加齢で再び活性化することで症状が出る。

通常、体の左右どちらかの神経に沿って痛みを伴う水疱(すいほう)や赤い斑点が帯状に広がる。皮膚症状の2〜3日前からかゆみや痛みが出る。顔面や目の周りにできることもある。刺すような痛みが起き、夜も寝られないほどになる場合もある。

日本人の9割以上は子供の頃にかかった水ぼうそうにより、体内に原因ウイルスを持っているとみられている。50歳代から発症率が高くなり、80歳までに約3人に1人が発症すると推定される。